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「自由気ままに暮らしたっていいじゃない?」

介護・福祉


記事公開日:2018/01/29、 最終更新日:2018/12/28

戦争で家族を亡くしたKさんの思い出

 

歩行と糖尿病のインシュリン以外はほぼ自立

 

今回は糖尿病と足元不安で入居しておられた、Iさんの話をさせて頂きます。

 

車いすを使っておられ、朝晩に糖尿病の為のインシュリン注射しておられること以外は、ほとんど自立しておられたIさんは、食事とお風呂以外は個室でほぼ引きこもりの生活をしておられました。

 

彼女のお部屋に入るのは、限られた用事の時だけでした。

 

お茶を配る時、洗濯ものを届ける時、お風呂の準備を受け取る時、食事の支度ができたことを知らせに行く時、眠前薬を服用して頂く時、あとは夜間の巡回で安否確認をする時くらいだったのではないかと思います。

 

「用事がないなら入ってこないで」とも仰っていました。

 

レクリエーションには参加されることはほとんどなく、他の入居者さんとの会話も隣室の方との挨拶程度。

 

「私はボケてないからお遊戯には行かないのよ」と、はっきり仰る方でした。そうは言っても、認知症の他の入居者さんに話しかけられると丁寧に笑顔で応対されていました。そういう点でも、確かに認知症状は少なく社交性も持っておられる方でした。

 

 

お部屋に覗うと、Iさんはベッドに寝転がっておられ、TVをつけているか、本を読んでいるか、でした。

 

レクリエーションの内容がお習字やお花の際は時折顔を出されていましたが、気乗りがしない時にはどのスタッフが誘いに行っても、部屋を出ようとはされませんでした。

 

「若い時にがんばって働いたから、もうごろごろのんびり暮らすのよ」と言うのが口癖で、そう言ってはからからと笑っておられました。

 

それを聞いていると「確かにもう無理をして他人に合わせたりする必要はないのかもしれないな」なんてことを、思ってしまったものでした。

 

 

女手一つで歩んできた人生

顔と名前を憶えて貰ってから、本当に時々ぽつりぽつりですが、Iさんは昔の話をして下さるようになりました。

 

早くにご主人を亡くされて、頼る親や親戚もいなかったため、女手ひとつで水商売で子育てしてきたこと。

 

手塩にかけて育てた息子さんは、良いお家のお嬢さんと結婚したから、とても老後を見てくれなんて言えないこと。

 

「大事に大事に育てても、結局は嫁にやるから世話なんてしてもらえないのよね」と淋しそうに笑っておられました。それでも大学を出た息子さんのことが御自慢で、塾にやるのに資金繰りが大変だったという話をする時は、とても楽しそうでした。

 

 

だいたい一カ月に一度、息子さんがケーキの箱をぶらさげて面会に来ていました。糖尿病でカロリー制限のあったIさんでしたが、このケーキだけは好きに食べたいと看護師さんに直談判して、目をつぶってもらっていました。

 

「好きなものだけ食べて、早く死ねたらいいのに」

 

お好きなコーヒーを入れてお持ちすると、そう言って笑われ、おいしそうにケーキを召し上がるのです。

 

自由気ままに暮らしたっていいじゃない

 

私がその老人ホームを退職することになった時は、まだ元気でおられたIさんは私の手を取って引き留めて下さいました。

 

「何年もいてくれてたあなたみたいな子がいなくなったら、私みたいな口うるさいおばあさんが暮らしにくくなるじゃないの」

 

本当に、涙が出るくらい嬉しかったです。

 

「ちゃんと子供を産みなさいよ」と声をかけて笑って手を振ってくださったIさん。

自分自身がどちらかと言えばお休みの日は、自宅で本を読んだりして過ごすのが好きなせいか、Iさんの暮らし方は一つの理想だと今は思っています。

 

「若い時にたくさんがんばったんですもの、自由気ままに暮らしたっていいじゃない?」

 

本当にそうですね、Iさん。

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