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入院、そして孤独なターミナル期へ

入院、そして孤独なターミナル期へ

介護・福祉


記事公開日:2018/05/28、 最終更新日:2019/01/04

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老人ホームからの大脱走

 

骨折からの入院を経て

 

その脱走の時には大きな怪我はしなかったNさんですが、その半年後もう一度法事の為に自宅に戻り、転倒して両脚を骨折されました。

そのまま入院され、もう戻ってこないのかと思いきや、病院で手がかかり過ぎるからと退院させられたということで、ホームに戻ってこられました。

両脚を骨折しているのに手がかかるとは…?と、これを読んで下さっている方は思われるかもしれませんね。

ですが、認知症の方は骨折しておられてもその方が歩けると思っておられたら、歩こうとしてしまわれるのです。

 

退院してホームに戻ってきたNさんは、手首にも足首にも拘束の跡がついていました。今なら考えられないことですね。

でも当時は、まだ介護保険がスタートしたばかりという時代でした。病院での身体拘束は、さほど珍しくないことでした。治療に非協力的な患者さんに対して、拘束を行うことがまかり通っていた時代の最後の方だったように思います。

事前に聞いた情報をもとにして、どれほど元気に動こうとするだろうかと、私たちはNさんに和室を用意してお迎えしました。ベッドと違い、布団からはみ出ても怪我はしないので、こちらの方が安全だろうと配慮したのです。

 

ところが……退院決定から退院までの期間で何があったのか、Nさんは既に衰弱していました。布団から出る元気は、ありそうになかった。

えらそうにふんぞり返っていたNさんが、小さく小さくなってお布団の上で寝ている姿に、なんともいえない気持ちになりました。

 

入院、そして孤独なターミナル期へ01

認知症フロアの中でも、体調不良者を見守るための部屋に、Nさんは移りました。

みるみる衰弱していくNさんに、けれどみんなあまり言葉を持つことはできませんでした。

必要な声掛けは、勿論しました。でも本当に、お世話していただけでした。

「Nさんが悪かったわけじゃないのに」。

そう思っても、気持ちがついていかなかった。その頃にはあの脱走の日に夜勤をした職員は半分が辞めていました。業務量と職員の数が見合っておらず、誰もが疲れ切っていて、事務的にしか仕事ができなくなってしまっていたのです。当時、職場での話題はより効きやすくて安価で購入できる睡眠導入剤はどこのメーカーのものか、でした。それ程に、疲弊していたのです。

 

衰弱しきったNさんは、ついにターミナル期に

 

やがて衰弱しきったNさんは、ターミナルと呼ばれる時期に入りました。終末期、です。

その説明を行った介護チームに、Nさんの家族は言ったそうです。

「一日一秒でも長く、生きさせて下さい」と。

Nさんの年金額は相当なもので、生活のアテにしているため死なれて年金が打ち切られたら困るのだと。

 

心臓が動いていれば、年金は支給されますのでお願いしますと言われたそうです。
さすがにこの時は、ホーム側がそんなことはできないと、療養型の病院を紹介したという説明を受けました。

そうしてNさんは、翌週には入院していきました。

けれども天命というものはあるようで、そこまでしても1カ月もしない間にNさんはお亡くなりになられたそうです。

 

いい介護は家族との関係ありきで成り立つもの

 

今ならどういうアプローチをしただろうか。

時々、Nさんのことを考えます。

今ならもっと上手にケアできたんじゃないだろうか。Nさんの立腹するポイントをもっと早く掴めたんじゃないだろうか。正しく様子観察できていたら、危険予測できていたら、脱走も防げたんじゃないだろうか。

いろいろ、いろいろ。

けれど、思うんです。
その方にとってより良い暮らしを……という思いではなく、その方を収入源としてしか見られない家族さんとは、組めないと。

介護士は、あくまで支援のお手伝いをする立場なんだと。

在宅介護に携わっている今だからこそ、そう思うのかもしれません。

ご家族には、ご家族の、たくさんの事情や感情があることと思います。
でも、出来るならば、その方自身を見て、一緒により良い支援を模索できたらいいなと……思わずにいられません。

 

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