親と思うから憎い。-在宅介護実録 沈んだ太陽 第九回
介護・福祉
記事公開日:2016/06/22、 最終更新日:2019/01/04
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ひき逃げ? 靴がタイヤに…。
こんにちは、ミチルです。前回からの続きになります。
ものすごい悲鳴が上がりました。車の外にはポキさんの姿が見えません。
急いで車を降りると、ポキさんが車のタイヤのすぐ横でひっくり返っていました。靴も片方脱げています。
駅前のロータリーには野次馬が押し寄せ「ひき逃げだ」と、面白そうに叫ぶ声がしました。
顔面蒼白していると、一部始終を見ていたらしいタクシーの運転手が「病院へ連れてけ」と促します。
私はブルブル震えながら、気がつけばケアマネのAさんに電話をしていました。
幸い、Aさんの勤務先が目と鼻の先だったため、自転車に乗ってやってきました。また、彼女の同僚たちも2、3人、車で救護に駆けつけてくれ、そのまま近くの外科医院へポキさんを連れて行ってくれました。
私は後から車でついて行ったのですが、頭のなかは真っ白でした。
検査の結果、ポキさんは足を擦りむいただけとわかりました。ただ、履いていた靴がタイヤに挟まれて脱げたらしいので、医者も「よく怪我をしなかった」と驚いていました。
恐らく、ポキさんはものすごい速さで痩せ始めていたので、靴が脱げやすくなっていたのだと思います。
私のなにげない言葉。
Aさんたちからの提案で、一度介護福祉課でこれからのことを相談した方がいいということになり、一旦市役所に河岸をかえることとなりました。
話し合いは午後2時からとなり、その前に「お昼を食べてください」と言われました。
私自身は食欲がまったくなかったのですが、ポキさんが「腹が減っては戦はできぬ」と、怪我したことなどすっかり忘れてしまったかのように、役所の食堂でカツカレーの遅い昼ごはんを平らげました。
食事中一切話さず、ただひたすらにガツガツ食べるポキさんの姿を思い出し、その後の話し合いの席で「本当にこの人の子宮に宿り、トツキトウカして、産道を通ってこの世に生まれてきたことが信じられないんですよ」と、改めて眺めるポキさんについて感想を述べると、傍にいたケアマネさんが私の言った一字一句を復唱しながらメモしていました。
それまでにも、私のなにげない言葉を丁寧にノートに書き取っていた彼女でしたが、その瞬間、なにか事件が起きた時のための証言として残しているのだとわかりました。
そして、Aさんは本当に冷静で優秀なケアマネさんだなと感心したのを憶えています。
親子の溝は修復できない。
会議には関係部署の担当者が出席して、ポキさんの今後について話し合ったわけですが、その間中、ポキさんは下を向いて泣きっ面になったかと思うと、何が悲しいのか秒速で忘れてしまうらしく、また平然と顔を上げる、つまり、悲しい顔でうつむく⇒スッキリした顔を上げる⇒悲しい顔でうつむくを最低10回くらいは繰り返していました。
そんな目の前の彼女を見て、「もうこの人との親子の溝を修復するとかいうことは永久に不可能になってしまったのだな」と感じました。彼女はすでに認知症なのだと。責めるわけにはいかないと。
その瞬間、自分の中でなにかがスッと消えてなくなるのが分かりました。
それが一体なんだったのか、今でもわからないのですが。ただ、それ以来、ポキさんのことは「親と思うから憎い。だったら親と思うのは止そう」と思うようになり、随分とラクになりました。
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