事件、勃発！-在宅介護実録 沈んだ太陽 第十六回

前の記事

新しいオモチャ。-在宅介護実録 沈んだ太陽 第十五回

ストライキ、決行。

こんにちは、ミチルです。

今回は、ケアマネさんの誤解（曲解？）から、緊急指令が発動された事件についてお話します。

ポキさんはゴハン粒をボロボロこぼしながらですが、食事はどうにか一人でできます。

ですが、自分で料理をしたことはなく、彼女が50代までは祖母が、祖母が痴呆症（現在の認知症）になってからは姉が料理を担当しています。

しかし、好き嫌いの多いポキさんに振り回される姉は、ときにはストライキを起こし、まったく料理を作らなくなってしまうことが今でもあるのです。

私自身は自分のゴハンくらい作れるから良いのですが、問題はポキさんです。「腹減ったー、腹減ったー」と、隣近所に聞こえるように庭で大声を出します。

だからといって、誰もポキさんを心配して駆けつけるような人はいませんが。

ポキさんは私の手料理は一切口にしないため、スーパーでお弁当を買ってきてあげるのですが、まずいといって食べません。仕方がないので、その日はポキさんが好きそうな菓子パンや袋菓子をゴハンがわりにテーブルに置いておいたのでした。

突然の訪問者。

間が悪いというかなんというか、お盆の直前でしたが、そういう時に限ってケアマネさんが突然訪問したりするのです。

そのときのケアマネさんというのは2番目のBさんで、私とはウマが合わない方でした。

私としては彼女の「見て見ぬふり」をする事なかれ主義が非常に不満でした。問題を掘り下げて自分の仕事が増えるのは勘弁と顔に書いてあるような人なのです。

その日のBさんは、ポキさんの惨状を目の当たりにして、まるで鬼の首を取ったかのような興奮状態でした。ポキさんも「マンマー、マンマー」と駄々っ子のように抗議します。

ほんの10分もいなかったBさんは玄関のドアが閉まるその瞬間、小声でなにかを言いました、しかも嬉しそうに。

普段愛想のないBさんにしては面妖な、と不審には思いましたが特に気にも留めませんでした。

精鋭6人が仁王立ち。

その１時間後、家のすぐ横で次々と車が停まる音が聞こえました。続いて、なにか俊敏な足音が近づいてきます。

ピンポーン。

玄関を開けると、屈強そうな男性3人を含む介護福祉課の精鋭6人が仁王立ちしていました。

「ケアマネのBさんから緊急連絡が入りました。お母さんの○○さんに2日ほど食事を与えていないそうですね。しかも、この暑さで脱水症状を起こしているという報告がありました。このままではネグレクトです。入らせていただきます」

あっけにとられている私を尻目に狭い玄関はいきなり大人数で埋まり、そのまま二手に別れ、保健婦さんともう一人の女性がポキさんの部屋に入り、昼寝をしていたポキさんを起こしてバイタルチェック。水を飲ませながら、なぜかボストンバッグに下着類、洗面用具などを詰め込み始めたのでした。

体格のいい男性が3人。

男性たちを陣頭指揮していたチームのリーダーらしき女性はキビキビとした口調で「少し話しましょう」と私をリビングへ誘導しました。

もはや怒る気にもなりません。

ここ数日間で何があったかを包み隠さず話すと、ケアマネが多少話を盛ったことがわかり、私は無罪放免になったのですが、「ご家族さんも少し休んだほうがいいですよ。暑いですから、ほんとに。お母さんはこのまま少し預かりますね」と、ポキさんを半ば強制的に車に乗せ、高齢者福祉施設へ連れて行くことになったのでした。

それにしても体格のいい男性ばかりで目を白黒させていると、「午前中に一件、父親に暴力を振るう息子さんの通報があったから、男3人がかりで羽交い締めしたんですよ」と楽しそうに笑ったのでした。

5日ほどして戻ってきたポキさんは神妙な面持ちで、姉の料理に文句を言わなくなりました。よほど施設の料理が口に合わなかったのかもしれません。

この記事の続きはこちら
ポキさんの切り札。-在宅介護実録 沈んだ太陽 第十七回