ポキさんの切り札。-在宅介護実録 沈んだ太陽 第十七回
介護・福祉
記事公開日:2016/09/07、 最終更新日:2018/12/28
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立場の逆転。
こんにちは、ミチルです。
今回は、私の姉ルミコさんとポキさんとの「親子関係の変容」についてお話します。
自分の親を介護していると「あれ? これじゃどっちが親だかわかんない」と、立場の逆転に苦笑いすることがあります。恐らく、これを読まれている方の中にも、子ども時代からの父母に対するイメージが覆された経験をお持ちの方も多いかもしれません。
ポキさんとルミコさんの場合、それははるか昔に起きていました。今から4半世紀前、私とルミコさんの育ての親である祖母が脳梗塞で倒れたときです。
取り払われた「衝立」。
当時、私は大学3年でしたが祖母の介護のため中退を余儀なくされ、実家のある埼玉に戻ることになったのです。アパートを引き払うので忙しかったころ、実家の姉からたびたび電話がかかってきました。
姉いわく「なんか、あの人とヘンな感じ」
あの人とは母親、つまりポキさんのことです。
長年、1つ屋根の下に暮らしていても会話したことがなかったため、気づまりだというのです。それまでは祖母が仲立ちをして、彼女を通じて間接コミュニケーションが成り立っていたのですが、祖母という「衝立」がいきなり取っ払われてしまったがゆえに、お互い右往左往しているらしいのです。
「こうなったら1からスタートしたら? 2人の間で新しいルールを作ればいいじゃない」とアドバイスしても、
「何をどう話せばいいかワカラナイ」と、初めての二人暮らしになかなか馴染めないようでした。
誰のこと?
ところが、私が実家に戻ったころには、いつの間にやらポキさんとルミコさんの間には奇妙な力関係が成立していたのでした。
なんとポキさんは自分の娘を「ねぇちゃん」と呼ぶようになっていたのです。そんな言葉が彼女の口から出るとは意外でした。
<おや?>とルミコさんも怪訝に思ったそうです、誰のことだろうと。まさか自分とは夢にも思わなかったようです。
過去にポキさんが祖母と話をするときだけ、ルミコさんのことを「ネー」と、鋭く一言で表現することがあったくらいです。けして「ルミコ」とか「ルミちゃん」とか娘の名前を呼んだことはなかったので、ルミコさんも<私のことは『ネー』って呼ぶのだな、あの人は>と理解していたと言います。
シュルシュルピターッ!
そして「ねぇちゃん」と呼ばれるようになってから、知らず知らずにルミコさんもポキさんのことを「おカァちゃん」と呼ぶようになったというのでした。不思議なものです。
もちろん、自分の子どもをお姉ちゃん、お兄ちゃんと呼ぶことはありますが、我が家の場合、いささかニュアンスが違うのです。どうやらそれはポキさんなりの「処世術」のようでした。
つまり20数年前に産んだ娘と向き合わねばならなくなった危機にひんして、今更ながらに母親ヅラする方法もわからなければ、そういった虫のいい話は通用しそうもないことが薄々わかったらしく、ポキさんは自分の長女を我が子としてではなく、一般的な呼称としての「ねぇちゃん」と呼ぶことで、まったく新しい人間関係を構築しようとしたようなのです。
母娘のような縦の主従関係ではなく、「ねぇちゃんとポキさん」という横並び同等関係です。これならルミコさんからそれまでの養育放棄を責められたりしませんし、ポキさんの一番の関心事である「食いっぱぐれがない」生活が続けられると踏んだのでしょう。
親という役割を投げ捨て、こんなふうにシュルシュルピターッ! と新たな関係性は生まれたのでした。
そんなわけで、現在のポキさんは年金と引き換えに、ルミコさんに身の回りの世話をしてもらっています。まさにギブアンドテイク。今でもたまにショートステイに入れるときなど、「誰のカネで食ってけると思ってんだ!」と息巻くポキさんですが、自分の切り札が何かちゃんとわかっている様子です。
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