地域包括ケアシステムって?
記事公開日:2015/11/25、 最終更新日:2019/03/22
地域包括ケアシステムという言葉をご存知でしょうか。地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい生活を送れるよう、地域内で包括的なサポートが受けられるようにするシステムのことを言います。
日本は深刻な少子高齢化社会を迎えており、医療や介護の担い手不足が深刻な状況となっています。また、核家族化が進んだことで家族による介護も難しい状況です。今後は既存の医療・介護保険サービスだけでは増加する高齢者を支えることは難しく、地域住民も含めた地域全体で高齢者を支えていく仕組みが求められており、各自治体において地域包括ケアシステムの構築が推進されています。
目次
地域包括ケアシステムの概要
高齢者は若い人と比較して新しい環境へ適応することが難しく、多くの高齢者は長く過ごしてきた住み慣れた地域で人生の最後まで暮らしたいと考えています。しかし、自分が住む地域に医療・介護など高齢者の生活を支えてくれる体制が整備されていなければ住み慣れた地域を離れなければならないケースもあります。そのようなことがないよう、同じ地域内で高齢者の「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」の5つが受けられるようにしようというのが地域包括ケアシステムです。
地域包括ケアシステムの特徴は地域の実情に合わせたシステムの構築が可能だということです。都会と地方では高齢化率に大きな違いがありますし、既存の設備や住まい、ライフスタイルにも大きな違いがあります。地域包括ケアシステムは全国一律の体制を目指すものではなく、地域の実情や特性にあったシステムを構築することにあります。
地域包括ケアシステムを実現するためには自助(栄養管理や運動など自分自身がおこなうケア)、互助(家族や地域の人との支えあい)、共助(介護保険・医療保険サービスなど)、公助(生活保護などの行政サービス)の4つの助けが必要とされており、地域住民・介護事業者・医療機関・自治体・ボランティアなどが一体となって取り組む必要があります。
各自治体では地域包括支援センターが主体となって「地域ケア会議」を開催しており、地域住民や専門家などが集まって地域包括ケア実現のために解決すべき課題の把握、解決方法の検討などをおこなっています。
地域包括ケアシステム導入のメリット
地域包括ケアシステムが導入されると以下のようなメリットが期待できます。
医療・介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らすことが出来る
住み慣れた地域に十分な医療・介護体制が整備されることで、医療や介護が必要になってもその地域で暮らし続けることが出来ます。
認知症の方やその家族が暮らしやすくなる
認知症高齢者の介護は家族を中心とした介護者に負担が集中しており、肉体的にも精神的に疲弊している介護者は少なくありません。地域全体に認知症に関する理解が広がり、地域全体で認知症の方を支える仕組が出来れば家族の負担は軽減されるでしょう。
各自治体では地域密着型サービスであるグループホームの整備や認知症サポーターの育成、認知症を介護している方が集まって相談し合える認知症カフェの整備などをおこなっています。
地域にあったサービスが生まれる
地域包括ケアシステムは自治体主体で推進されるため、地域の実情にあったサービスが生まれやすいというメリットがあります。移動手段が少ない地域では介護タクシーやコミュニティバスが導入されたり、買い物がしにくい地域では移動販売や配食サービスを利用できるようにするなど各地域で様々なサービスが導入されています。
介護サービスに関しても特別養護老人ホームやグループホーム、訪問介護、定期巡回・随時対応サービスなど地域の実情に合わせた介護サービスの整備が可能となります。
高齢者の社会参加がしやすくなる
高齢者には介護が必要な方もいれば、病気ひとつない元気な方もいます。地域ケアシステムが構築されれば元気な高齢者が社会参加しやすくなり、社会的な役割を持つことで生きがいを感じながら日常生活を送ることができます。
具体的な取り組み
ここでは各自治体でおこなわれている地域包括ケアシステムの具体的な取り組みについて紹介します。
在宅医療の推進
都市部では介護施設を大幅に増やすことが難しく、多くの自治体が在宅医療を推進しています。
東京都世田谷区の事例では地域ケアシステムを構成する「医療」「介護」「介護予防」「住まい」「生活支援」の5つにおいて以下のような取り組みをおこなっています。
- 医療 在宅医療の充実
- 介護定期巡回・随時対応型訪問介護看護の整備強化
- 介護予防 高齢者の生きがいづくり・高齢者の社会参加の推進
- 住まい 都市型軽費老人ホーム、グループホームの整備
- 生活支援 NPOや社会福祉協議会主体による地域全体での高齢者支援
認知症高齢者を見守る取り組み
神戸市東灘区では医療・介護・地域住民の連携による認知症高齢者の見守り支援がおこなわれています。具体的には交番、商店、地域住民が定期的に集まり、地域の高齢者に関する情報交換をおこなったり、医療・介護の専門家と相談し対応策を検討しています。高齢者への見守り支援が強化されたのはもちろんのこと、振り込め詐欺を未然に防ぐなどの実績もあがっています。
高齢者の住まい確保への取り組み
高齢者が住まいを確保することは簡単なことではありません。特に人口が少ない地方では高齢者向け住宅が少なく、やむなく施設へ入所しているケースもあります。
人口1万人ほどの小さな町である鳥取県南部町では空き家が多い現状を活かし、空き家を高齢者向け共同住宅として活用する取り組みをおこなっています。共同住宅ではスタッフによる見守りや食事サービスを受けることができ、1人暮らしが難しい高齢者でも安心して日常生活を送ることが出来ます。
豪雪地域での除雪支援
北部地域や日本海側の地域には豪雪地帯が多く、冬場には自宅の除雪作業が必要になります。屋根にのぼっておこなう除雪作業は高齢者にとっては危険が大きく、毎年のように転落事故が発生しています。
札幌市では行政と住民ボランティアが協力して支援組織を立ち上げ、高齢者への除雪支援をおこなっています。地域の企業や大学生が自発的に参加してくれるなど大きな成果をあげています。
地域包括ケアがもたらす変化
では、地域包括ケアシステムによって具体的には何がどう変わっていくのでしょうか。
わかりやすいところでは、診療報酬の改定があります。
各市町村は2025年に向けて介護保険事業計画を3年毎に策定・実施していきます。
どこのエリアにも中小規模の病院や診療所、クリニックの役割がより重視されます。
在宅療養の推進を進めていくとともに、在宅での患者の体調が急変した場合にはすぐに入院できる体制を整えておく必要があります。
診療報酬改定に伴い、200床未満の中小規模病院には「医療地域包括ケア病棟入院科」が新設されます。診療報酬は日額2588点です。中小の病院や診療所の医師には主治医機能が与えられます。地域包括診療料として1503点がつくようになります。有床診療所の基本料金も値上げされ、診療報酬の上限は日額771点から861点に改定されます。
このように診療報酬を見直すことで介護と医療の連携を強めていく狙いがあります。
その他にもサービスの創設や重度化への対応入所の場の創設などが推し進められていきます。
サービスの創設
・施設と同様24時間対応の介護サービスの創設
・通所・訪問・宿泊を行う「小規模多機能型」と「訪問看護」を一体的に運営する「複合型サービス」の創設
・一定の空きベッドを利用して受け入れを可能とする緊急ショートステイの介護報酬化
・重度化への対応
・施設の重点化、機能強化を図る観点から、要介護度別に介護報酬を設定
重度者がメインでサービスを利用するように誘導していく
・サテライト型小規模多機能の創設・泊まりの場を増やしていく
この他にも今後様々なサービスや施設の整備が行われていきます。在宅で暮らす人が意欲を持って暮らしていけること、そして支える家族に安心感を与えること、地域全体で高齢者を支えていこうという意識を持つこと、これがシステムづくりをしていく上で何よりも大切なことだと言えるでしょう。
地域包括ケアシステムでの老人ホームの位置づけ
地域包括ケアシステムのなかで、現在高齢化社会の中核を担う老人ホームの役割というものはどう変わっていくのでしょうか。
①地域包括ケアシステム構築の背景
約800万人といわれる団塊の世代の方が75歳以上となる2025年(平成37年)以降は、高齢者人口の増加に比例して、医療・介護の需要もまた更に増加すると予想されています。この状況は、地域によって差が生じてくるため、大きな枠組みの制度の中では対応できない問題が多く発生してきます。そのため地域の状況に合わせたケアシステム、いわゆる『住居、医療、介護、予防、生活支援』などを、自治体や医療機関・介護施設・地域が相互協力し一体となって取り組むシステムが必要となってきました。高齢者の方が住み慣れた場所で最期まで自己を尊重した生活が送れるようになるためには、この地域独自のケアシステムの構築が要点となっています。
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②老人ホームの従来の役割
これまで老人ホームは、主に身体的や経済的に在宅での生活が困難な高齢者の方が最期まで安心して暮らせる場所、要するに『住居』としての役割を担ってきました。
『ホーム』と名の付くように、入居者の方の『家』であるため、基本的に介護ケアなどの生活支援は行われますが、在宅へ移行するための自立支援などはあまり行われておりません。支援する対象者も施設利用者のみとなっています。
③地域包括ケアシステムでの老人ホームの役割
老人ホームには施設管理者を含め、医療・介護・福祉に専門的な知識や技術を有している者が従事しています。
この専門的技術を施設内だけに止まらず、広く地域へ技術提供する事により地域での支援サービスの向上が見込まれます。例えば老人ホームに従事するソーシャルワーカーが、地域の在宅高齢者の方の元へ出向き、相談支援を行います。この様な活動を行う事により、地域に住む多くの高齢者の方やご家族の方のケアが可能となります。
また、施設としては『住居』機能だけではなく、極力自立生活に向けた支援を行うことも必要とされてきます。これにより、入居待機の方に入居の機会が与えられ、老人ホームの課題であった待機者数の減少に繋がります。ケアシステム構築の際にも、専門的知識なくしては複層的な支援システムを作り上げる事は不可能です。
今後この地域包括ケアシステムのなかで、老人ホームという社会的資源が、高齢者ケアの専門機関としてソーシャルワーク機能を持ち、地域でのケアシステムのハブ的機関となる事が期待されます。
今後の課題
今後、推進されることが期待される地域包括ケアシステムですが、いくつかの課題が報告されています。
①医療・介護連携がうまくいっていない
地域包括ケアシステムにおいてもっとも重要となるのが医療と介護の連携です。しかし、医療と介護は普段別々の場所で業務をしており、業務も多忙なため十分なコミュニケーションがとれていません。また、医療と介護の間にはメンタル的なバリアがあるとも言われています。医療・介護従事者による努力が必要なのはもちろんですが、行政による連携しやすい仕組みづくりが必要と言えるでしょう。
②地域格差が大きい
地域包括ケアシステムの主体は国ではなく自治体です。そのため、財源や人的資源には大きな格差があります。当然ながら人口が多く高齢化率も低い都心部のほうが財源や人材は確保しやすくなります。受けられるサービスに違いが出てくるとサービスが充実している方に人が流れ、さらに格差が広がってしまうおそれもあります。
③担い手不足
地域包括ケアシステムにおいて中心的な役割を果たす医療・介護・福祉の分野の人材は大幅に不足しています。将来的には外国人労働者を受け入れることが議論されていますが、外国の方に地域の実情を理解した仕事を求めることは難しいでしょう。
また、地域包括ケアシステムでは、地域住民同士で助け合う「互助」が重視されています。しかし、実際には多くの自治体でコミュニティが失われており、親切心でおこなったことが逆にトラブルに発展することも少なくありません。地域社会の力を利用するということにはリアリティがないという疑問も多く聞かれます。
地域包括ケアシステムが構築されるまでにはたくさんの課題をクリアしていく必要があります。しかし、地震や豪雨など自然災害の際には復興ボランティアに多くの人が集まってくれるなど、日本には助け合いの精神が根付いています。より多くの人が助け合いの心を持てば地域包括ケアシステムの構築は難しくはないでしょう。
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