食べる力を信じる看護師。-介護ニュース
記事公開日:2016/05/18、
経口摂取ができない人には、胃ろうや経管栄養。医療や介護の現場では一般的な選択になっています。しかし、そこに挑み続けるのが、食べる力を回復させるエキスパート、看護師の小山珠美さんです。これまでに担当した患者およそ2,000人のうち、9割もの人が再び食べられるようになりました。
出典:NHK プロフェッショナル 仕事の流儀
http://www.nhk.or.jp/professional/2016/0516/index.html
食べることをあきらめる。
あきらめることは、食べることだけではありません。
家族といっしょに食卓を囲むこと
友人と会って食事をすること、
食べものを見ること、聞くこと…。
食べることをあきらめたら、食べること以外にもあきらめることになるかもしれません。
看護師の小山珠美さんは、摂食嚥下障害を抱える人たちの食べる力を回復させるエキスパートです。ひとりでも多くの「食べたい」という願いをかなえたいと、これまでに担当した患者およそ2,000人のうち、9割もの願いをかなえてきました。
摂食嚥下障害を抱える人が経口摂取、つまり口から食べるときに注意しなければいけないのは、誤嚥。食べものが正しく食道に送られず、気管に流入することです。肺に入って細菌が増殖し、肺炎を起こすと、死につながるケースもあります。
そこで小山さんは、患者を注意深く観察し、磨きあげた技術で無理なく安全に食べられるよう食事介助を行います。
まず大切なのは、アゴが上がりすぎないようにすること。アゴが上がると喉頭と気管が一直線になり、誤嚥のリスクが高まるからです。背中の角度は30度以上、姿勢が崩れないよう肘を固定、スプーンはアゴが上がらない角度で口に入れます。
そして、意識を鮮明にさせること。食べものを意識させて食欲を引き起こし、正しく飲みこめるよう、一口ごとに声をかけます。
さらに食事介助で重要なのが、スプーンです。小山さんがよく使うのは市販の食事介助用スプーンで、表面にある凸凹が舌に有効な刺激を与えてくれます。
一般にあるものでおすすめなのは、一口が適量なティースプーン。逆に容量が多すぎるカレースプーンは、誤嚥を引き起こすリスクがあるので食事介助には向きません。
小山さんは、できないと思わない、できると信じることで、医師から胃ろうや経管栄養をすすめられた患者から、食べる力を回復させてきました。
経口摂取は、視覚・嗅覚・味覚を刺激し、脳の働きを活性化します。脳血管障害などによって言葉を発することが難しかった人が、言葉を発するようになることがあります。
唾液の分泌が促され、唾液中の酵素や抗体が感染症の予防や免疫力の向上の働きにつながります。
そして何より、食べることは生きる喜びへとつながっていきます。
誤嚥しないように、確実に栄養が摂取できるようにと、医学の進歩は生きる喜びを奪ってしまったのかもしれません。
介護施設での食事介助は、数ある業務の中の一つです。しかし、その1回、1回の関わりが、その人の人生を変えることになるんですね。